わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「ねぇ、姫さまは、リナといつから知り合いなの?」
隣の席のジョンが訊いてきた。
「大学のときからよ」
「で、同じ会社に就職したの?」
「そう」
「リナはフロントだって言ってたけど、姫さまも?」
「ねぇ、ジョンくん。『姫』でいいよ」
「じゃ、俺のことも『ジョン』でいいよ」
「わかった。今はオペ室よ」
「えっ、オペ室? 病院なの?」
「あ、ごめん。ホテルの電話交換室のこと」
「へえ。じゃ、電話したら姫が出るの?」
「いつもじゃないけどね、シフト制だから」
「今度かけてみよっかな」
「あー、ダメダメ。私用電話は禁止よ。今日だって、リナからかかってきて怒られそうになったんだから」
「じゃ、姫のケータイ番号、教えて」
「教えない」