わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「そうなんだ? じゃ、リナの相手は誰なの?」
「ペアってこと?」
「うん」
「まぁ、だいたい最初は、ほら、今リナが話してるチェックのシャツのヤツ、あいつと踊ってるけど、俺とも踊るし」
「そうなの? ペアって決まってないの?」
「誰と踊ったっていいんだよ。俺も、その日の気分とか曲に合わせて、いろんな娘(こ)と踊るし」
「へぇ」
「どう? ちょっと踊ってみたくなった?」
「うーん、でも、なんか難しそう」
「男のリードが上手いと、女の子は身を任せてるだけで踊れるから」
「だって、ステップとかあるでしょ」
「まぁ、もちろん基本のステップは教えますよ」
「わたしでも踊れるようになる?」
「俺が教えて踊れなかった娘はいない」
「ジョンって、サルサの先生なの?」
「ううん、違うよ。ただ、好きなだけ」
「踊るのが? それとも、教えるのが?」
「どっちも。特に、可愛い娘にはね」
ジョンは、そう言うと姫にウィンクした。