わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
リナは幹事なのか、会計をしに先に下に降りて行った。
姫もコートを着た。
ジョンが近寄って来て、すっと姫のコートの右ポケットに何か入れると、黙って階段を下りて行った。
あまりにも一瞬のことで、ジョンは姫と目も合わさなかった。
さっきまでのは、なんだったんだろう。姫はからかわれたのかと思った。
右ポケットに手を入れて、そっと探ってみる。
平べったくて、丸くて硬い。これは、もしかすると……。
手を突っ込んだまま、姫も階段を下りた。
リナが入口のレジのところで会計をしていたので、「外にいるね」と声をかけて出た。
ジョンは、と探してみたけれど、いない。近くにいた人に訊くのも変なので、リナが出てくるのを待つことにした。