わたしがまだ姫と呼ばれていたころ
「ここ、寒くない?」
ジョンが、大げさに肩をすくめながら言った。
「寒い」
ビル風がびゅうっと、枯葉を巻き上げている。
「あったかいところで、もう少しだけ話さない?」
「そうね。何かあったかいもの、飲みたいわ。明日お休みだし、もう少しなら」
「じゃ、俺んち、来る?」
「うーん。今日はやめとく」
「ね、今さ、『今日は』って言ったよね?」
「え? 言わないわよ」
「言った」
「言わない」
「この次があるってことだよね?」
「……サルサ、始めてみようかな」
「俺に任せて」