わたしがまだ姫と呼ばれていたころ

それから男は、「今日職場であった面白い話」というのをしてくれたのだが、ちっとも面白くなかったので、「もう大丈夫だから行こう」と、姫は席を立った。

姫が手を洗いに行っている間に、男は会計を済ませてくれていたようだ。

「わたしの分は?」

「いいよ、今日は」

「でも、次があるわけじゃないのよ」

「ううん、いいんだ」

「そう。じゃ、ごちそうさま。ありがとう」

「ねぇ、少し歩かない?」
男にそう言われ、腕時計を見る。

「そうね、まだ早いから、少しなら」


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