マーメイド・ラブ
急に黙り込んだ私を彼はしばらく見つめると、ふと先生の方を向いた。それは何気ない動作だっだけれど、私にはなぜか二人が目で合図したような気がした。
 そして、先生の口が開く。
「彼はね、海岸で意識を失っている貴方を発見して運んできてくれたのよ」
 ね、と同意を求めるような感じで先生は彼の方をみる。
 そうそう、と彼はうなづく。
 「そうだったんですね。・・・ご迷惑おかけしました」
私は掛け布団にくっつくほど深々と頭を下げた。
 「怪我とかしていなかったし、検査の結果も問題なかったから大丈夫だろうって思ってだんだけど、それからなかなか目を覚まさないって聞いたときは、心配したよ。だから、先生から目が覚めたって連絡があったときは、すぐに来ようと思っていたんだけど、仕事の都合ですぐに来れなくてね。やっと参上しました。」
 そういうと、彼は耳の後ろをポリポリと掻いた。
 どうやら、照れているらしい。
先程まで何かしら違和感を感じていた私だが、彼の好感の持てる態度で少し気持ちが和らいだ。
 ”ふっ”と少し笑顔を向けると、彼はもっと笑顔で私を見つめ返してくれた。
 それはとても心が温かくなるような笑顔だった。
 でも、なぜだろう。
 この笑顔を私は知っている・・ような気がする。
 懐かしいような、でもなんだか切ないような気持ちになる。
 (本当に知らない人なのかな?)
 最初に感じた違和感はやっぱり心をくすぐる。
 でも、思い出せない。
 それがとてももどかしかった。 

 その後、先生は用事があるからと病室を出て行き、私達は他愛のないおしゃべりをした。
 何度かそろそろ・・という雰囲気になったが、何か胸に突っかかった感の”なにか”を知りたくて、その度に引き止めていたら、面会時間の終わりまで、彼は嫌な顔をせず一緒にいてくれた。思わず涙を流してしまったくらい、孤独感を感じていた私にはそんな優しさが嬉しかった。

  
 
 
 
 
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