あなたの運命の人に逢わせてあげます

翌年、おれに十四歳も年の離れた妹ができた。

新しい「父」がおれに(つら)くあたったわけじゃない。むしろ、なにかと気を遣ってくれていた方だと思う。

いつまでも心を閉ざしていたのはおれだ。

実の父は母との離婚の際に、親権を渡す代わりにおれに父の姓を名乗らせることを要求した。

つまり、母は父と離婚しても旧姓に戻れなかったのだ。

再婚するにあたって母は、新しい「父」と養子縁組することを望んだが、おれは(かたく)なに拒否した。

だから、新しい家族の中でおれだけが「魚住」だった。

高校を卒業したおれは、家を離れて念願の一人暮らしをはじめた。

おれが出て行くとき、懐いていた幼い妹は泣き喚いたが、同じ姓の家族三人水入らずで暮らすのが、この妹のためにもいいだろうと思った。

それ以来、家には帰っていない。

年に数回、母と妹がおれの様子を見にやってくるくらいだ。

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