あなたの運命の人に逢わせてあげます
インド料理店の入ったタワービルを出ると、目の前にシネコンが見えた。
「映画でも観ようか?」
おれが訊くと、美咲は今話題の第二次大戦下のナチスドイツを舞台にした映画が観たいと答えた。
主演俳優は世界中に名の知られたハリウッドスターだが、ストーリーは戦争を題材にしているだけあって硬質なものだ。おれもちょうど観たいと思っていた映画である。
「映画のタイトルは北欧の神話の女神の名前なんだけど、ドイツ語で『戦死者を選ぶ者』って意味だって」
と、美咲が教えてくれた。
「……おっかない女神だな。たとえどんなに綺麗な女でも、おれは近づきたくねえな」
おれが苦笑しながらそう言うと、
「『デート』で観る映画じゃないよね」
彼女は首を竦めた。
確かに、恋人同士が観るタイプの映画ではない……っていうか、そもそも女はこの手の映画って苦手なんじゃないだろうか。
そういえば、美咲はどうやって知識を仕入れたか知らないが、子どもの頃から何でもよく知っていた。社会が得意で、歴史なんか、小学校の先生が舌を巻くほどだった。
「いや、欠伸の出る恋愛映画より、ずっといいけどな」
おれが顔を顰めながら言うと、
「あたし、ラブストーリーも好きだよ。でも、そういうのは映画館じゃなくて、DVD借りて家で観るんだ」
美咲は屈託なく笑った。