あなたの運命の人に逢わせてあげます

おれたちが出逢ったあの頃、美咲は人生の中でかなり(つら)い時期を過ごしていたのだそうだ。

「あたし、世にも暗~い子どもだったでしょ」

美咲は自嘲気味に笑った。

あの頃、彼女の父親が病を患って、入院していたと言う。

おれはそれを今、初めて知った。

美咲の母親は働いて家計を支えながら、自分の夫の看病もしなければならなかった。
余裕のない母親の気持ちの()け口は、たった一人の娘である美咲に来た。

「……今なら、おかあさんの辛かった気持ち、よく理解(わか)るんだけど」

美咲はおれの腕の中でつぶやいた。

あの頃、彼女が母親から浴びせられた言葉はことごとく、子どもの人格を傷つけ、将来にまで影響を及ぼす、「トラウマ」になるものだった。
中には、子どもが自ら命を断ってもおかしくない言葉も含まれていたらしい。

長じて大学で児童心理学を専攻した美咲は、それを知った。

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