桜が咲く頃、君の隣で。
第一章 l ast time

俺を見ない転校生


下駄箱の一番上の段から上履きを取り出し放り投げるようにして床に置くと、ひっくり返ってしまった上履きに軽く舌打ちをする。

朝は怠い、朝は苦手だ。登校時間があともう一時間遅かったらな、なんて思いながら上履きを履き、冷えた廊下をのんびりと歩き出した。


三学期が始まって三日目、今日もまたいつもの一日が始まる。


そう言えば、あの噂はどうなったんだろう。

大きなスクリーンが設置された映画鑑賞室や、都会のジムさながらのトレーニングルームにプラネタリウムまで完備された校舎に建て直すらしい。
という噂が立ったのは、俺が入学してすぐの頃だったと思う。

けれど入学からもうすぐ二年が経とうとしているのに、工事の予定は一切ない。


大方、綺麗な校舎に憧れた誰かが希望を込めて『こんな校舎だったらいいな~』という話をして、それを聞いた誰かがまた誰かに話しをし、そうして尾ひれが付いた噂話が勝手に広がってしまっただけだろう。


三年間毎日通うのだから確かに綺麗な方がいいに決まっているし、俺ならこんな校舎がいいなと自分なりに考えたこともある。

天井がガラス張りになっている天体観測用のドーム型の施設なんかがあったらかっこいい。

でも別に天体観測が趣味だとかそういうわけではなく、むしろ興味ない。
しかも映画鑑賞ルームって、そもそもどういう時に使うんだ? ジムもプラネタリウムも、必要性は感じない。


誰が最初に噂を流したのか知らないしどんな施設が出来ても構わないけれど、今建て直すのだけは勘弁してほしい。

古くたって一応二年通ったんだ、卒業までプレハブで過ごすくらいなら通い慣れた古い校舎の方がまだましだ。

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