桜が咲く頃、君の隣で。
「そっか、じゃーまた明日」


急ぐように鞄を持ち、俺に背を向けた雪下さん。

「さようなら」くらいは言ってもよさそうなものだが、目も合わせてくれないとなると次に話しかける時にあれこれ考えてしまいそうだ。



「帰るの?」

クラスの女子に言われ、雪下さんは頷いた。


「まだ色々手続きとかあるみたいで、今日は帰らなきゃいけないんだ」


ちゃんと返事をしている。しかも割とハッキリ。

「気をつけてね」「また明日」というクラスメイトの声にも手を振って答えている。


雪下さんが教室の入口まで行くと、理紗が駆け寄って行った。
ここからでは会話は聞き取れないが、なにやら楽しそうに話しをしている。

三回の休み時間の間にもう仲良くなったのか、さすが理紗だ。などと感心しながら見ていると、雪下さんが突然口を大きく開けて笑った。

その笑顔に、またも心臓が激しく揺れる。


俺とは目も合わせてくれなかったのに、普通に楽しそうに笑うじゃん。ということは、萎縮していたわけではないのか。


視線の先にいる雪下さんは、笑顔のまま理紗に手を振って教室を出て行った。

もしかしたら男が苦手なのかもしれないが、なんだか腑に落ちない。


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