桜が咲く頃、君の隣で。
「気になっちゃう感じ?」
ハッとして振り返ると、大和が俺の前の席に座って購買のパンをかじっている。しかもちょっとニヤつきながら。
「なにがだよ」
入口に向いていた体を元に戻し、鞄から弁当を取り出して机の上に置いた。
「珍しく一生懸命話かけてたから」
いったいいつから見ていたのだと言いたくなったけれど、この話はあまり膨らませたくない。
「別に、隣の席だし挨拶ぐらいはしとかなきゃと思っただけだ」
「へー、そうなんだ。弁当誰と食べるのか気にしたり、人のことに興味を示さないお前がそこまで考えてあげるなんて珍しいからさ」
「考えてあげるとか、そんな大袈裟なことじゃねぇし。最初だから気遣っただけで、ただの挨拶だろ」
会話まで聞かれていたのかと思うと恥ずかしい。
そのただの挨拶ですらまともに返してもらえなかったのだから。
弁当の卵焼きがいつもよりしょっぱいし、自分の気持ちがモヤモヤしているこんな時に限ってご飯もやたらと柔らかくて不快だ。
作ってもらっているのだから文句は言えないが。
「大和は……喋ったのか?」
気になるわけじゃなく、ただの会話の流れで聞いただけ。
そう言わんばかりに弁当を食べながら呟いた。
「喋ったよ」
大和の言葉に思わず顔を上げてしまった自分に驚き、すぐに目を伏せた。
「ふーん。なんて?」
俺は一体どうしちゃったんだろう。自分でも不思議に思うほど、雪下さんのことが気になって仕方がない。