桜が咲く頃、君の隣で。
「ある意味凄いよな、彰は」

「どこがだよ。人気者のお前に言われてもな」

「だって、彰はいつだって彰じゃん」

「なんだそれ」


よく分からない大和の話に耳を傾けながら、食べ終えた弁当箱を鞄にしまった。

壁に寄りかかると、教室の入口に立っている他のクラスの女子数名がこちらを見ている。
こちら、ではなく大和だろうな。間違っても俺を見ているなんてことはないだろう。



「気も遣わないし、自分の感情の赴くままというか、とにかくいつでも素だし普通だよな」

「それって全然凄くないだろ」

「俺はそうは思わないけど。学校みたいな集団生活の場において素でいられるって結構凄いことだぞ」


俺は首を傾げた。部活でも行事でも恋愛でもなんでも、一つのことに夢中になれる奴が羨ましいと思っているからだ。

そうやって頑張っている奴らと比べてしまえば、素でいられることなんかなんの得にもならない。


それに、ただなんとなく毎日を過ごしていることに不安がないわけじゃない。

中学も特別なことはなにもなく過ぎてしまったし、このまま高校生活を終えてしまって本当にいいのかとも思う。



「俺はそういう普通の彰と一緒にいるとすげー楽だけどさ、好きな人くらいはいた方がいいんじゃないかと思ってたから、安心したよ」

「だからそんなんじゃねーって言ってんだろ」


言葉ではそう言い返しているのに、何故か雪下さんの顔が浮かんだ。

笑った顔ではなく、決して俺の目を見ない素っ気ない返事しか返してくれない雪下さんの顔。

明日になったら、理紗に見せていたような笑顔を俺にも向けてくれるだろうか。


< 13 / 50 >

この作品をシェア

pagetop