桜が咲く頃、君の隣で。
確かに、俺は人の目を気にして行動するようなことはあまりない。

俺みたいななにもない奴が、誰に嫌われようとどう思われようとたいして重要じゃないと思っているからだ。

でも今、俺は雪下さんに嫌われたくないと思っている。まだ会ったばかりで特別な気持ちはないはずなのに、出来れば嫌われたくない、好かれたいと思っている自分に驚いている。



「普通はさ、今こういうことを言ったら嫌われるかもとか考えちゃうもんなんだよ。人気者は特にな」

「お前それ、自分で言うのかよ」


笑っている大和を見て、ふと思った。

完璧な大和には悩みなんかないんだろうなと思っていたけれど、もしかしたら人気者は人気者ゆえの苦悩みたいなものがあるのかもしれない。

人の目を気にしなきゃいけないっていうのも、結構しんどいだろうな。



「必死に話しかけようとしてる彰を初めて見たもんだから嬉しくてつい色々言っちゃったけどさ、まーあれだ、気になるならその気持がなんなのか確かめてみるのもいいんじゃねーの? とりあえずトイレトイレ」


そう言って大和は席を立ち教室を出ようとすると、入口に立っていた女子に早速話しかけられている。

笑顔で答えている大和を見て、早く行かないと漏れるぞーと、心の中で訴えてみた。

俺なら話しかけられても立ち止まることなくトイレに一直線だけど、でももし雪下さんに呼び止められたとしたら……そう考えると、立ち止まってしまうような気がした。



確かめると言っても、具体的にどうすればいいのだろうか。

雪下さんが俺と普通に話してくれるようになったら、その答えも自然と見つかるのか……。

なにも考えずに過ごしてきたせいか、こういう時にどうしたらいいのかなにも浮かばない。我ながら情けないな。



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