桜が咲く頃、君の隣で。
俺はなんてバカなんだ。なにも考えていないにもほどがある。

普段からなにも考えずに、思うがまま適当に過ごしていたからこんなことになるんだ。

よりによって、嫌われたくないと思った相手にこんなことをしてしまうなんて。バカだ、俺は本当にどうしようもないバカだ。



教室に入った時にはちょうど出席を取り終えたばかりだったのか、担任が残念そうに俺の顔を見た。


無遅刻無欠席はこの際もうどうでもいいけれど、雪下さんのうしろを通り過ぎた時に感じた胸の痛みは、消えそうにない。



授業中、俺は一切雪下さんを見なかった。というより、見ることが出来なかった。

『走らせてしまってごめん』とそう言えばいいのに、あの時見た雪下さんの顔を思い出すと、そんな簡単な言葉すら言い出せなくなる。


きっと俺のことが嫌いになったに違いない。いや、寧ろ最初から俺のことが苦手だったんだ。

しつこく話しかけたらもっと嫌われてしまうかもしれないけれど、でも出来るなら話したい。

雪下さんのことが知りたい。でも……。



答えが出ないまま、俺の頭の中で同じ言葉が何度も繰り返される。

一度でも雪下さんが俺に笑顔を向けてくれていたら、悩まずに話しかけていただろう。

けれど俺に向けられたのは笑顔ではなく、今にも泣き出してしまいそうなほどに潤んだ瞳だった。


大和の背中に隠れるようにして頭を抱えていると、チャイムが鳴った。



「とうとう遅刻しちゃったな、皆勤賞への道はここで途絶えたか。って、お前ずっとこのままだったのか?」


振り返った大和が俺の机の上を見てそう言った。

机には現国と科学の教科書が閉じたまま置かれている。ふと前を見ると、黒板には数字が並んでいた。

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