桜が咲く頃、君の隣で。
「快適な街づくりか。まずはどの世帯にするかだよな」

ファミリー、一人暮らし、お年寄り、それぞれ住む人によってどのような街づくりをすれば快適に暮らせるのか。

プリントに目を通しながら考えていると、雪下さんの手が動いた。
プリントになにか書いているようだ。

目線だけを向けると、プリントの隅になにかの動物の絵を描いている。


「タヌキ?」

見られていることに気付いた雪下さんは描くのを止め、動物の絵の上に両手を重ねた。

そして、「……犬」そうボソッと呟いた。


「あっ……犬、だよね」


笑って誤魔化しながら、心の中で自分を殴る。

またお前はそうやってなにも考えずに発言する! 普通に考えて、落書きするとしたらタヌキじゃなくて犬が定番だろ!


喋れば喋るほど印象が悪くなる気がするが、喋らなければ雪下さんを知ることなんて出来ないし、悩むな……。


他のクラスメイトは隣の席同士で話し合いを進めているようだ。時に笑ったり、不満そうな表情を浮かべたりしながら。


俺と雪下さんの間には、見えない壁が確実にある。

俺ではなく理紗だったら、雪下さんはもっと楽しそうに授業を進められたのかもしれない。
理紗と言うよりも、俺以外の奴と言った方が正しいのか。



「えっと、とりあえず雪下さんはどの世帯が住む街づくりを考えたい?」

雪下さんは黙って俯いている。


「お、俺は、やっぱファミリーかな。自分達と同じ環境の方が考えやすいと思うし」


様子を伺いながら言った俺の言葉に、プリントを見ながら雪下さんは頷いた。

そんなに凝視しなければいけないようなことは、このプリントには書かれていない。

つまり、俺を見ないための逃げ道がプリントというわけか。切ないな……。

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