桜が咲く頃、君の隣で。
「じゃー、ファミリーってことで。まずはお互いノートに書いて、それを後でまとめる感じにしようか?」


雪下さんが無言で頷く。それを確認した俺は、鉛筆を持った。

話し声や物音で騒然としている中、黙ってノートに向かっているのは俺達だけで、まるでここだけ別空間にいるようだ。

俺は鉛筆を持つ手に力を込めた。



「雪下さんは……姉妹いるの?」


なんでもない世間話なのに、告白でもしているかのような緊張感が俺達の間に流れる。


少し間を置いて、雪下さんは首を横に振った。


「俺は兄貴がいるんだ。俺と違って出来た兄だから、なにかと比べられちゃってね」


別に聞いてない。という心の声が雪下さんから聞こえてきそうだ。

俺自身もそう思っている。別に俺のことなんか興味ないだろ。それでも、たとえ一方的だとしても、少しでも話をしたいと思う。

二人で話す機会はもう二度と訪れないかもしれないし。



「趣味とかある?」「うちの学校ボロいでしょ?」「理紗と仲良くなったみたいだけど、あいつたまに口煩い時あるけどいい奴だから」「家は近いの?」「部活は入る予定ある?」


一時間の間に俺が投げかけた質問全てに、雪下さんは頷くか首を横に振るかで答えた。

一度も声は聞いていない。

一度も、俺の顔は見なかった。



休み時間になると、やはり他のクラスメイトには笑顔を見せる雪下さん。

それでもなぜか、俺の心の糸は切れなかった。

いつもの俺なら、面倒だからもういいと思ってしまっただろう。

意地になっているのかもしれないし正直凄く悩むけれど、多分知りたいのだと思う。



俺を見てくれない、その理由を……。




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