桜が咲く頃、君の隣で。
子供の頃、気の弱い友達がからかわれたりすると理紗が助ける、そんな場面を何度も見た。
クラスの中で虐めのようなことが行われていれば、声を大にして『やめなよ!』と訴えるような奴だ。
そんな理紗とは異性ということもあってか、中学になるとあまり二人では遊ばなくなったが、部活や行事に相変わらず一生懸命取り組んでいる理紗を見かけることは度々あった。
いつまで経っても理紗は変わらないなと思う一方、俺はだいぶ変わった。
こんな俺でも子供の頃はそれなりに一生懸命だったはずで、運動会では一等を取ろうと必死に走ったし、なんだったか忘れたけれど夢もあったと思う。
それが成長と共に段々と変わっていき、頑張ったってどうせ無理なんだからと、いつしか毎日を適当に過ごすようになっていった。
楽しければそれでいい。人生まだまだ長いのだからどうにでもなると。
俺自身それでいいと思っていたけれど、心のどこかでなにもない自分に嫌気がさしていたのも事実だ。
そんな時に現れたのが、雪下さんだ。
変らない毎日の中で、雪下さんに話しかけることが楽しくて仕方がない。
冷たい態度を取られ避けられ落ち込んでも、明日こそはと頑張っている自分に驚きだ。
これまで適当に過ごしていた学校生活が、今は本気で楽しいと思える。
その情熱を別の物に向けろと言われても、多分無理だろうな。
恋愛がどうとかではなく、恐らく一人の人間として俺は雪下さんを知りたいと思っているから。
空っぽな心の隙間が少しずつ埋まってきている気がするのは、勉強でも部活でも夢でもなんでもなく一人の転校生のお陰で、つまりは……
ひと目惚れということになるのだろうか。
まだなにも知らない彼女のことを好きかと言われたら、正直分からないが……。