桜が咲く頃、君の隣で。
*
「来年はもう三年生なのに、どうするかちゃんと考えなさいよ!」
「はいはい……」
パンを半分食べたところで席を立った俺はリビングを出て歯を磨き、二階にある自分の部屋で支度を始めた。
朝からキンキンと頭に響く母親の声を聞くのはだるい。兄と違って出来の悪い俺のことなんかとっくに諦めているくせに、一応心配はするんだな。
どうするか……か、どうするかな。
大学への進学が一般的だろうけれど、本当にそれでいいのか悩む。
金もかかる上に大学に行ったからといって将来安泰という世の中ではない。しかも俺の頭で行ける大学などたかが知れている。
専門学校で学びたいことも特にないし、就職して自立するのが一番なのか……。
あ、そう言えばこの前配られた進路調査のプリント、今日書いて絶対提出しろと担任に言われたんだった。
出してないのは俺だけだとか言っていたな。
最近は雪下さんのことばかり考えていたから、俺の頭はどこか抜けている。
着替えを終えた後、プリントを取り出そうと鞄の中を探ったが見当たらない。
準備した物を全部出してみたが、それでもない。
確か鞄の中に入れっぱなしだったと思うが、俺の勘違いか?
「時間じゃないのー?」
下から母親の声が聞こえてきた。時計を確認すると、いつも家を出る時間の二分前になっていた。
やばいな、今日忘れたらさすがに親に電話がいってしまいそうだ。それだけは避けたい。
もう一度入念に鞄や部屋の中を探していると、ふと思い出した。
そう言えば、理紗のやつどうしたんだろう。家まで来るとか言ってたわりには遅くないか?