桜が咲く頃、君の隣で。
理紗が行った後もう一度探してみるも、やはり見つからない。

絶対に鞄の中に入っていたはずだ、と言うかそもそも一度も鞄から出していないのだからそれしか考えられない。


俺を呼ぶ母親の声が何度も聞こえてきたが、それを無視して探し続けるも結局見つからなかった。


呆れたような母親の声を背に、担任になんて言おうか考えながら憂鬱な気持ちを抱えたまま家を出た。


駅までは大通りに出ると一本道だが、少しでも時間を短縮したい俺は決まって裏道を使う。

家を出ると緩い下り坂があり、そこを下りずに右に行くと大通りだが、このまま坂道を下る。

下りきったところを右に行くと狭い路地に入り、最初の交差点を左に行き一方通行の道を真っ直ぐ行けば駅に着く。

大通りまで出るよりも三分程時間が短縮できる。たかが三分だが、人が多い通りを行くよりもずっと良い。



プリントのことを頭の片隅に置きながら一方通行の道に差しかかった時、狭い道にパトカーが止まっているのが見えた。

野次馬なのか、人も結構集まっている。


いつもの道はどうやら通行止めになっているようだ。

背伸びをして人の頭上から先を覗くと、一台の白い軽自動車が思い切り電信柱にぶつかっていた。バンパーが潰れている。


事故を起こした車を目の前で見るのは初めてだったので気になったが、今の俺にはそれよりも気になることがあるため、足早にその場を去った。


結局そこから大通りまで出て駅に行き、電車に乗り込んだ。

いつもより二十分も遅れての乗車だから遅刻はこの際仕方がないが、プリント……。

ここから学校までの間に言い訳を考えないとな。


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