桜が咲く頃、君の隣で。
雪下さんのことばかり考えていると、チャイムが鳴った。遅刻してきたからか、いつもより終わるのが早い。
「で、結局見つかったの?」
先生が教室を出た後、廊下側に座っていた理紗が俺の席までやって来た。
「あぁ。鞄に入れっぱなしだと思ってたら、机の中にあった」
「そっか、見つかったなら良かったけど……。そうだ、ねぇ美琴」
振り返った理紗が雪下さんの机に手を置いた。
「美琴も進路調査って書いたの?」
理紗の顔を見上げている雪下さんは、「ううん」と首を振りながら小さな声で答える。
まだ転校して来たばかりだから書かないのかもしれない。
「彰はなんて書いたの?」
「えっ?」
「進路だよ」
話しかけてきたのは理紗なのに、俺は雪下さんの様子を伺いながら口を開いた。
「一応就職って書いたけど、まだ……決まってない」
雪下さんは次の授業の準備をしている。俺の声は聞こえているはずだが、興味ないのだろう。
「就職かー。そうだ、ねぇ美琴、彰ってどんな風に見える?」
突然理紗が雪下さんに俺の話を振った。
予想していなかった展開に、心臓の鼓動が激しくなっていく。
今話しかけたのは俺ではないのだから、雪下さんはちゃんと答えるだろう。でもその答えは俺に対する答えでもあるわけで……。
「どんな風って……」
「印象だよ。どう思った?」
少し困ったように俯き、両手を胸の前で握った雪下さん。
そして一言呟いた。
「普通の……人、かな……」