桜が咲く頃、君の隣で。
雪下さんの言葉に、理紗は両手を叩いて笑っている。

だけれど俺は、嬉しかった。普通の人なんて言われて喜ぶ奴はいないのかもしれないが、俺は嬉しい。

見えていないと思っていた雪下さんの目に、普通の人としてちゃんと俺が映っていたということだから。思わず頬も緩んでしまうほどだ。


「なにニヤついてんの? 普通って言われてんだよ?」

「うるせーな、分かってるよ。いいんだよ、普通で」


普通でいい。雪下さんの世界の片隅にいられれば、普通だって俺には褒め言葉だ。


「ほんと彰には普通って言葉がベストマッチだよね。どこにでもいる感じだし誰に対しても普通の態度で、ある意味羨ましいわ」

「確かに自分でもそう思うけど、普通普通言い過ぎだろ」

「だってその通りじゃん。まーこんな普通の彰だけどさ、なにも考えてないところがいいところっていうか。だから美琴も仲良くしてあげてね」


視線の先に入る雪下さんが小さく頷いた。こんな些細なことが、たまらなく嬉しい。



チャイムが鳴ると、理紗は自分の席に戻って行った。

ざわついている教室の中で、俺は雪下さんの方に体を向けた。



「あのさ俺、ほんとなにもないし雪下さんの言う通り普通だけど……でも、雪下さんと友達になりたいんだ」


雪下さんは俯いたまま、なにも言わなかった。

それでいい。声が震えていたかもしれないし、前の席にいる大和に聞こえてしまったかもしれないけれど、そんなことはどうでもいいんだ。

たとえ雪下さんが俺を良く思っていなかったとしても、俺は雪下さんを知りたい。

ただ、知りたいだけだから。


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