桜が咲く頃、君の隣で。
クラス中が固唾を飲んで見守る中、黒板に雪下さんの名前を書き終えた担任が「大丈夫?」と声をかけた。
すると雪下さんの肩が少しだけ上がり、俯いていた顔をパッと上げる。
その瞬間、心臓がドクンと大きく脈を打った。
黒髪のせいで余計に白く見える肌、何度も瞬きをする大きな目は、遠くを見つめるかのように教室のうしろの壁に真っ直ぐ向けられている。
可愛いという言葉以外で表すなら、目を離したら消えてしまうのではないかと思うほど透明感があって、どこか儚げだ。
勝手に震えてしまう心臓に手を当て、ゴクリと唾を飲むと、彼女は言った。
「雪下美琴です。この学校の近くにある大学病院に通うため、転校して来ました」
少しだけざわつき始める教室。
深く考える余裕もないまま、彼女の言葉が頭の中を通り過ぎた。
「私は……病気です。だから、体育は見学が多くなるし放課後遊んだりとかもあまりできませんが、よろしくお願いします」
頭を下げると、雪下さんの長い髪が揺れた。不謹慎だとは思うが、その容姿と病気というのが妙に合っている気がした。
「席だけど……」
担任がそう言うと、俺は顔を上げた。
俺のクラスは全員で三十一人。席は五人ずつ六列並んでいて、俺の列だけは六人いる。つまり、俺の席だけ横には誰もいない。
最初からなにか少し違和感があったのは、これのせいだったのかと今更気付く。
チラッと横を見ると、そこにはあるはずのない席があった。
「あそこの空いている席で。おい吉見(よしみ)、頼むぞ」
担任と目が合うと、俺は背筋を伸ばして頷いた。
転校生が来るという経験は多分小学生の頃にあったと思うけれど、転校生を頼むと言われたことは一度もない。これが初めてだ。
もう高校生なのだから世話をしろという意味での頼むではないだろうけれど、頼まれても具体的になにをすればいいのだろうか。
とりあえず、軽めに挨拶だけしてみよう。
すると雪下さんの肩が少しだけ上がり、俯いていた顔をパッと上げる。
その瞬間、心臓がドクンと大きく脈を打った。
黒髪のせいで余計に白く見える肌、何度も瞬きをする大きな目は、遠くを見つめるかのように教室のうしろの壁に真っ直ぐ向けられている。
可愛いという言葉以外で表すなら、目を離したら消えてしまうのではないかと思うほど透明感があって、どこか儚げだ。
勝手に震えてしまう心臓に手を当て、ゴクリと唾を飲むと、彼女は言った。
「雪下美琴です。この学校の近くにある大学病院に通うため、転校して来ました」
少しだけざわつき始める教室。
深く考える余裕もないまま、彼女の言葉が頭の中を通り過ぎた。
「私は……病気です。だから、体育は見学が多くなるし放課後遊んだりとかもあまりできませんが、よろしくお願いします」
頭を下げると、雪下さんの長い髪が揺れた。不謹慎だとは思うが、その容姿と病気というのが妙に合っている気がした。
「席だけど……」
担任がそう言うと、俺は顔を上げた。
俺のクラスは全員で三十一人。席は五人ずつ六列並んでいて、俺の列だけは六人いる。つまり、俺の席だけ横には誰もいない。
最初からなにか少し違和感があったのは、これのせいだったのかと今更気付く。
チラッと横を見ると、そこにはあるはずのない席があった。
「あそこの空いている席で。おい吉見(よしみ)、頼むぞ」
担任と目が合うと、俺は背筋を伸ばして頷いた。
転校生が来るという経験は多分小学生の頃にあったと思うけれど、転校生を頼むと言われたことは一度もない。これが初めてだ。
もう高校生なのだから世話をしろという意味での頼むではないだろうけれど、頼まれても具体的になにをすればいいのだろうか。
とりあえず、軽めに挨拶だけしてみよう。