桜が咲く頃、君の隣で。


休み時間になると、転校生の周りには人だかりが出来た。

隣の席の俺から僅かに見えるのは彼女の長い髪だけで、ほぼ隙間なく埋まっている。


取り囲んでいるのはほとんどが女子で、男子達は自分の席から様子を伺っているという感じだ。
本当は話したいけれど、割って入るほどの勇気がないのだろう。とっつきやすいイメージではないし、可愛いから尚更だ。


時々会話が聞こえてくるものの、よく聞こえない。更には他のクラスの奴らまで見に来るもんだから、騒がしくて仕方がない。



一時限目も二時限目もその後も挨拶すら出来ない状態がずっと続いたまま、昼休みを迎えた。


隣の席なのだから、一度くらいはきちんと挨拶をしておくべきだ。
そう思い、雪下さんがまた囲まれてしまう前にさっさと声をかけてしまおうと、授業が終わった瞬間誰よりも早く立ち上がった。



「あの、なかなかタイミングがなくて言えなかったんだけど、吉見彰って言います」


雪下さんは鞄を机の上に置いて立ち、ゆっくりとこちらを向いた。

俺の目は見ず、頭を少しだけ下げる。


「え……っと、昼は弁当? 誰かと一緒に食べるの? うちのクラスの女子は騒がしいけど悪い奴はいないと思うから、気軽に……」

「すみません……」


雪下さんは再び俺に向かって頭を下げた。

話を中断されたにも関わらず、そんなことよりやっぱり声も綺麗だなと思ったのが正直なところだ。

彼女の俯いている顔に見惚れつつ、話しを続けた。


「いや、なんで謝んの? 隣の席だし、これからよろ」
「私、今日はもう帰るので」


またも話を途中で遮られてしまった。

俺の話がつまらないからか、でも別に面白い話をしようとしたわけではない。ただの挨拶だ。
よろしくと、それさえも最後まで言わせてくれない雪下さん。

俺のことを良く思っていないのだろうか。

最初に見つめ過ぎたのがやはり気持ち悪かったのか、それか転校初日で色んな奴らに囲まれて一方的に話しかけられ、萎縮してしまったのかもしれない。

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