不機嫌なジェミニ
「いい匂いがする」とリビングで私の顔を見るので、

「ロールキャベツにしたんですけど、連絡があってから仕上げをしようと思ってて、
トマト味とクリーム味とどっちがいいですか?」

「トウコの家ではどっち?」

「えっと、いつもは1日目はコンソメのままで、翌日にトマト味かな…」

「じゃあ、コンソメのままで。明日の分もある?」

「…はい。えっと、私が帰った後も野菜が取れるといいなと思って…」

「トウコはいい奥さんになれそうだな。着替えてくるよ」

と笑った瞳で私の瞳を覗き込んでから頭を撫でてベッドルームに入って行く。

…奥さんって…ドキンとする言葉を簡単に使わないで欲しい…
ジンさんにとっては軽い褒め言葉でも私は簡単に舞い上がってしまうんだから…

…年下の女の子に使う褒め言葉。
親戚の伯父さんにもよく言われたよね。 と自分に言い聞かせる。

舞い上がりすぎないようにしないと…
ジンさんの恋人は私だけじゃあないんだから…


「ジンさん、借りた衣類を持って来たんです」とベッドルームの前で声をかけると、

「どこの部屋も入っていいし、クローゼットも勝手に使っていいんだよ。
鍵を渡している時点で、そういうつもりだから…」と楽しそうな声に

…それは…
信用されているようで嬉しいけど…

他の女の人の影は見たくない。と

少し考え込んでしまう。
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