不機嫌なジェミニ
「どうした?トウコ」
と返事をしない私を不審に思ったのか
ジンさんは部屋着に着替える手を止めて、手にシャツを持ったまま、私の前に立つ。

「いいえ、じゃ、クローゼット開けますね。」と微笑むと、

「クローゼットの左側をトウコ専用にしておいた。左側の引き出しも。好きに使ってくれていいよ。
…2人きりだと、トウコは遠慮がちだな。もっと、リラックスして隣にいていいんだよ」

と私の顔を覗いてからコットンのシャツを羽織って私を腕の中に入れる。

「…はい」とジンさんの胸に額を付けて声を出して、腕を抜け出し、キッチンで夕食の用意を続けた。



ジンさんは洗面で手を洗い、キッチンに立ち、
チーズやオイルサーディンや燻製の牡蠣やオリーブを冷蔵庫から取り出し、白ワインを飲み出した。
(そのまま食べるおつまみだけは冷蔵庫に入っている。)

「トウコも飲む?」と聞くので、

「今から飲んだら、食事の前から酔っ払います。先に座って飲んでいてください。」と笑うと、

「トウコのそばで、飲みたいんだよ。一緒につまんでよ。」と私の口に手に小さなクラッカーに乗せたオイルサーディンを差し出す。

私が口を開けると、ゆっくり口の中に入れてくれる。
ジンさんの指先がクラッカーを離して私の唇をなぞって離れる。

私はジンさんの指先が唇に触れただけで、どきりとして顔が赤くなっていくのがわかる。

「…美味しい。ちっとも魚臭くない」と俯いて言って木ベラで鍋の中をかき混ぜる。

「気に入ったレストランから分けてもらってるんだ。俺の好きな物をトウコも好きになってくれたら嬉しい。
トウコの好きなものも教えてよ」と私を背中から抱きしめて、耳元で囁く。

「じゃあ、スイーツ教えます。食事の後のチョコや、アイス。」と笑うと、

「きっと俺はトウコの好きなものを好きになるよ」とジンさんは耳に甘く歯を立てる。

身体の奥がブルリと震える。


「ご飯にしましょう」と明るい声で言おうとしても掠れた声が出る。

「先にトウコ」とジンさんは首筋に舌を這わせる。

私はジンさんの腕の中で我慢出来ずに小さな声をあげる。


ジンさんはIHコンロの火を止め、私を抱き上げベッドに運んだ。




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