不機嫌なジェミニ
通用口を出て、走って喫茶店のドアを開けると、

「いらっしゃい」とマスターが私に微笑んだ。

「あ、あの、成宮さん来てますか?」と聞くと、奥を指差す。

私が急ぎ足で1番奥のテーブルの前に立つと、

ジンさんはノートパソコンを開いたままうつ伏せに寝ていた。

「しゃ、社長、ジンさん、会議の時間です。」とそっと肩を揺らすと、ゆっくり瞼を開いて瞳を見せ、

「…トウコか…何?」とうーんと腕を伸ばして、欠伸をする。

…私の事覚えてたんだと嬉しくなる。

「会議だって蘭子さんが…」と言うと、

「はいはい。コーヒー飲んじゃうから待ってて。」とゆっくりコーヒーを飲んでいるので、

「片付けて良いですか?」と広げていたスケッチをまとめ、ファイルに入れると、

「トウコ、便利。パソコンも片付けて良いよ。」と笑っている。

「早く飲んでください!」
とジンさんに確認しながら画面のデータを保存し、パソコンを片付け荷物を両手で抱えると、

のんびりとやっと立ち上がって私を横目に見て、

「トウコ、昨日より小さくない?」と私の頭にポンと手を乗せる。

「昨日はヒールを履いていたけど、今日は仕事しやすいようにバレーシューズなだけです。
手をどけてください。」と両手がふさがっているので、ブンブンと頭を振ると、

「おまえ、ちっこい犬だな。」とワシャワシャと髪をかき混ぜた。

「やめてください!
小さくないし、犬じゃありません!
…社長が大きすぎるだけです!」
とプリプリ怒りながら店のドアに向かうと、
クスクス笑いながら、私の後を歩いて、

「ジン。だよトウコ。
社長じゃなくってみんなジンって呼んでるから.…
マスター、後でくるね。」とジンさんは手を振った。

…ジンさんって私も呼んでいいの?
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