不機嫌なジェミニ
昼を過ぎて、眉間にしわ寄せてデザイン画を睨んでいると、

「進んでるか?」とジンさんが部屋に入ってきた。

後ろに書類を抱えた蘭子さんが入ってきたから、
社内で打ち合わせがあったのかもしれない。

真っ直ぐジンさんはセイジさんのパソコンを覗き込み、
ここを強調して。とか「うーん。」とセイジさんと一緒に悩み、色を変えてみたら…と、
具体的にアドバイスしているみたいだ。

私はまた、デザイン画に戻って考え込んでいると、

後ろにジンさんが立って、

「その『鳥』好きなのか?」と急に声を出すので

「うわっ!」と驚ろくと、

「普通、セイジの様子を見たら、次はおまえだろ。」とジンさんはくすんと笑う。

「と、鳥ですか?」と描いているデザイン画の王冠のデザインに目を落とすと、

「ちげーよ。ペンケースについてる鳥。」
と私がいつも持ち歩いているペンケースのブローチを指差す。

「…はい。」とジンさんを見上げ、うなずくと、

「できの悪い鳥のようだけど…」

まあ、少し無骨で、滑らかな加工じゃないけれど…
クオリティの低いアクセサリーは気になるのだろうか?

「気に入ってるんです。」

「これと交換しない?」とポケットからミントのタブレットを取り出す。

「しませんよ。『ハトこ』」はずっと一緒なんです。」

「それって鳩じゃねえだろう。」

「昔から『ハトこ』」と呼んでいるので、鳩でいいんです。」

「ぜってー鳩じゃねえ。」

ええい、うるさい。

「ぜってー交換しません!」と言うと、

「上司に向かっていい態度だ。デザイン画、2枚追加。」
と不機嫌な顔で私の髪をくしゃくしゃにして、にいっと笑って離れて行き、

「飯いくぞ。『マッキンレー』に来い。」とドアを出ていく。

鬼!横暴!
と後ろ姿に声を出さずに口を動かすと、
私達のやり取りを横目で見ていたセイジさんがプッと吹き出し、

「トウコちゃん、ジンさんがご飯奢ってくれるって。行こう。」と私に笑いかけ、

「お兄ちゃん、セクハラで訴えられるよ。」と蘭子さんが呆れた声で、ジンさんについて行った。
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