不機嫌なジェミニ
「やっぱりまだいたか」とちょっとため息を付いてジンさんが部屋に入ってくる。
私がハッと顔を上げると、辺りは暗くなっている。

午後6時。
冬は日が短いからな。少し思いながらジンさんの顔をボンヤリ見上げた。

「トウコ、昼飯食った?」

私は首を横に振る。そう言えば、ずっと机に座ってたかも…

「根性だけじゃ、プロは勤まらねーよ。
ちゃんと休んで飯行こうぜ。俺も食いそびれた。」とくすんと笑う顔が穏やかだ。

「帰る用意しな。飯食ったら送ってく。」

「と、トイレに行ってない。」と私が急に立ち上がると

「ばーか。漏らすなよ。」と声を出して笑って、自分のデスクを片付け始めた。

私がトイレから戻ると、私の座っていた椅子に座り、
ペンケースについた『ハトこ』を撫でている。

「『ハトこ』が気に入ったんですか?」

「そうだな。ダサいところが気になる。」

「あげませんよ。」とくすんと笑うと、

「俺は結構しつこいんだ。」と笑って立ち上がり、早く片付けろと私を急かした。

私が用意をおえると、エレベーターの前に一緒に並んで

「何が食いたい?頑張ったご褒美になんでも食わせてやる。」といったので、

「焼肉!」と遠慮せずに言うと、

「いいねえ。焼肉。トウコは気取ってなくていいな。」

とクスクス笑ってエレベーターの前に立った。




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