不機嫌なジェミニ

ジンさんはビルの駐車場に停めた、よく見るエンブレムの銀色の高級車の助手席に私を乗せ、
スムーズに車を発進させた。

FMラジオから流れる音楽と一緒に鼻歌を歌い、リラックスして車を運転しているようだ。
私は喋らないでもいい空間が心地よく、
ジンさんと一緒に鼻歌を歌ったり、流れる景色をボンヤリ眺めていると、
30分も経たずに、車は郊外の焼肉店のビルに入っていった。

よく聞く有名焼肉店。

学生の私は足を踏み入れた事がないので、キョロキョロしながら案内されると、
ジンさんは個室を頼んでいたようだ。

やっぱり大人はやる事が違う。

ふたりきりで、向かい合うと緊張するけど、
高級なお肉が運ばれてきて、ジンさんが焼き始めると、いい匂いが広がって、

「美味しそうですね。」と思わず笑顔になる。

「上手く焼いてやるからどんどん食え。」と楽しそうに笑って焼けたお肉を私に取り分けてくれ、

「もうちょっとそれは待て。」とか、「これはもう、食べごろ。」
とか私の世話を焼きながら、ジンさんも美味しそうに食事をしている。

ジンさんは私の専門学校時代のことや、子供の時の話を楽しそうに聞いてくれ、
のんびりと食事をした。

ジンさんはたくさん食べるけど、食べ方は綺麗だ。
きっと育ちがいいんだろう。と顔を見つめると、

ふっと、笑顔を見せて、

「やっぱり、トウコは犬だな。」と楽しそうだ。


私のどこがそんなに犬なのかわからないけど、

仕事中とは違うジンさんは柔らかい笑顔を何度も見せるので、

私も嬉しくなってニコニコと食事をした。



帰りは部屋の前まで、送ってくれ、私の髪をくしゃくしゃと楽しそうに撫でて、
明日は家で休め。
と言って車を発進させた。

私はお腹がいっぱいで眠くなり、

幸福な気持ちで部屋に戻った。