不機嫌なジェミニ
…私が目指すのは身近なジュエリーかな…

美しいものが全て手の届かないものとは限らない。

私の持っている数少ないジュエリーの中で1番好きなモノは
鳥がモチーフになったシルバーのブローチだ。
大きく羽を広げた鳥が大空へと連れて行ってくれる気がした。

近所の大学祭で気に入って母に買ったもらったもの。
お守りにように布製のペンケースに付けてある。
私がジュエリーデザイナーを目指すきっかけをくれたもの…なんだけど

…どうやらジュエリーデザイナーの道はとても険しそうだ。


「あー…」とテレビをぼんやり見ていた香澄が声を出す。

「?」

「トーコちゃん、今日の占いビリだ…」

私がテレビに目を向けると、情報番組の最後の星占いのコーナー

『残念。今日の12位は双子座のあなた。同じ双子座の異性に注意しましょう。
面倒な事になってしまうかもしれません。』

と少し小首を傾げ、顔をしかめた女性アナウンサー…私は双子座だ。

『今日も、1日頑張りましょう』とパッと切り替わった笑顔で女性アナウンサーは手を振る。


…双子座の異性…

不吉な予感がする…

『Gemini Diamond』の社長って明らかに双子座の異性だったよねえ。


「…頑張ればいいんでしょう。頑張れば…」とブツブツ言いながら食器を片付け、厚いコートを羽織ってマフラーを巻き、カバンを持つ。


「…トーコちゃん、ファイト。」と香澄はまたあくびをしながら、ベッドに戻るようだ



「行ってきまーす。」

と誰もいない玄関で口癖の言葉を言ってドアの鍵をかけ、
大きな白いため息を吐いてから築20年のマンションのエレベーターに向かった。









< 5 / 159 >

この作品をシェア

pagetop