不機嫌なジェミニ
「お疲れ様でした。」と店の通用口にまだいた販売の新入社員達が声を出す。

「お疲れ、明日もよろしく。」とジンさんは私の肩を抱いていない手を振る。

「ジンさん、離してくださいっってば。」と私が小声で抵抗すると、

「トウコ、今日も泊まって行けば?」とみんなに聞こえるように言ってからくしゃくしゃと髪を撫でて歩いて行くので

販売の新人さん達の固まる様子が手に取るようにわかる。



ジンさん!何やってるんですかー!?



「ええ!?トウコちゃん、嘘だって言って!」とセイジさんの情けない声と

「セイジには私がいるでしょ!」と怒る蘭子さんの声が響く。


ええ?我に返ってやっと声が出る。

「何やってるんですか?ジンさん!」と私が怒ると、

「敵はサッサと潰しとかねーと」とクスクス笑う。

はい?

「ああ、面白かった。販売の女の子達の顔を見ました?
それに若い方の販売の男の子トウコちゃんの事何度も見てたの気付いてたんですね?」と結城さんがジンさんに笑いかける。

「まあね。トラブルは未然に防がないとな」ジンさんがクスクス笑って私の肩から腕を外し、
手を繋いでのんびり歩き出す。

「何やってるんですか?!」と私が怒った顔をジンさんに向けると、

「お子様のトウコにはわからない話」とジンさんは楽しそうに私と繋いだ手をキュッと握る。


「楽しそうな職場で良かったです。
それにしても、ボス、トウコちゃんって大変そうですね。」と結城さんは楽しそうに笑う。

「俺は苦労が絶えない。」
と私の頭をクシャクシャと撫でて微笑むジンさんに手を引かれて、

わけがわからないと思いながら
私はみんなと一緒にのんびり道を歩いた。





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