不機嫌なジェミニ
四角いビルの通用口からエレベーターで4階に降りると、
ずらりとスーツ姿の男女が集まっていた。

販売のスタッフも募集していたけど …
これって多すぎない?!
確か数名程度の募集だったはずだけど…?

「君、受付して!」とエレベーターを降りてキョロキョロしていると、
くっきり二重の顔の整った王子系の背の高い男性が廊下の奥から声をかけてきた。
突き当たりが受け付けらしい。

「はいっ!」と大声で返事をして並んでいる人を追い越し、廊下を進む。

「名前言って。」

「ふ、藤野 透子です。」

「トウコちゃんか。迷った?
本当は遅刻。だよ。
おまけしておいてあげる。」
と笑顔の王子は顔を近づけ囁き、時計を確認してウィンクする。

きょ、距離が近い。
顔が真っ赤になる。
くるりとした瞳が楽しそうに笑う。

「あ、ありがとうございます。」とペコんと頭を下げると、

「後ろに並んで。販売とデザイナーは別に面接するから、名前呼ばれたら部屋を移って。」

「はい!」

「元気いいね。受かってほしい。」と微笑んでくれる。

「はい!」ともう一度、頭を下げて廊下を戻っていると、

「セイジ、ナンパすんな。」という声に振り向くと
と受付の中にいた背の高いストレートヘアの美人が
王子の頬っぺたをぎゅうぎゅうつねっているところを見てしまった。

セイジさんっていうんだ。
…結構な勢いで頬っぺたつねられてる。

と思いながら廊下の反対側、入り口のドアから更に階段まで続く長い列の1番後ろに並んだ。


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