不機嫌なジェミニ
混んだ電車の中で、ジンさんは私を守るように自分の前に立たせる。

「トウコ、2駅だから我慢しろよ。…でもさあ、なんでリュックを体の前に背負うんだよ。」と笑った声を出す。

「…だって、ジンさんのピンバッチを失くしたら困ると思って」

「そのリュック、俺とトウコの邪魔だって思うんだけど…」
と屈みこんで耳元で言いながら片手を私の背中に回す。

ガサガサと電車に揺られてリュックが私とジンさんの間で音を立てた。

ふふと私が可笑しくなって笑うと、
ジンさんは背中に回していた手で、くしゃくしゃと私の髪を撫でる。

「やめてください」と口を尖らせると、ジンさんは楽しそうに口の端を上げた。


電車を降りてジンさんの後ろを歩くと、

「トウコ、隣を歩かないと、手を繋いで歩くけど… 」
と振り返るので、慌てて隣を歩くとふっと笑って足取りを緩めてゆっくり一緒に会社に向かった。


「おはようございます」と私達の隣を通り過ぎながらジンさんに挨拶をする社員に

「おはよう」と涼しい表情を浮かべ、挨拶を返すジンさんは仕事の顔をしている。


私は仕事の顔のジンさんも好きだなと思いながら大人しく隣を歩いた。





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