不機嫌なジェミニ
店舗が開店する前に商品についての説明を統括マネージャーに聴きながら、
1階から3階のフロアを案内される。
(ここは本店なので店舗全体の販売の責任者の50代の男性が
研修を担当してくれているようだ。)

本社ビルは6階建だけど、
防犯の目的で店舗と事務所はビルの中で繋がっていないし、
店舗部分もパスで自由に出入り出来るのは役員クラスだけだ。

1階と2階が一般客のフロアで3階はVIPルームと事務所。

私達はショーウインドウに並んだ様々な宝石類の説明を受ける。
ここの1階のショーケースの一角に『ciao!』の商品が置かれることになる予定だ。
具体的に商品が置かれると決まった場所を覗き込む。
私のデザインした商品がブランドの名前とともに置かれることを思うと、
嬉しい気持ちとともに大きな責任も感じる。

ジンさんの特別なオーダーメイドの貴金属はVIPルームで注文され、
3ヶ月ほどかけて出来上がり、受け取ることができるらしい。

見学を終え、店舗を後にしようとすると、

「へー。あんな子どもがジンさんの今度の相手?」
「遊ばれているだけでしょ。ジンさんは誰にも本気にならないって噂だし…
この間はミミさんとキスしてた。」
「お気に入りのモデルのアヤや、ジュンが忙しいから暇つぶし。」
「すぐに捨てられるでしょ」

と開店の準備をしながら私の横でヒソヒソと言いながら通り過ぎて行く。


私が唇を噛んで通り過ぎると、

「ほんと、女の嫉妬は醜いわねえ」とけっこう、周囲に聞こえるように呟く結城さんの声がして、

「ですよね!」と販売のピンクの口紅が大きな声で同意している。

「ちょっといいの?あなた販売でしょ」と結城さんの声に

「私本店に配属じゃないし…」と朗らかに笑って私の頭をポンと撫でて通り過ぎて行った。

私がポカンと立ち止まると、

「…トウコちゃんって守ってあげたくなる子よねえ」

と結城さんが笑って私の手を引き、
武田さんと吉岡さんが私達の後ろを歩き、店舗を後にした。






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