タイムリープ
開いてる窓から白いレースのカーテン越しに夏の午後の暑い日差しが差し込み、私の瞳に悲しく笑う母親の姿が映った。

確かに母親の言うとおり、私たちを捨てた父親の姿はこの病院にはなかった。

「お母さん………」

私は、母親の手を優しく包み込むように両手で握りしめた。

さっきよりも、母親の手が冷たく感じた。

午後3時32分。私は昼食を食べたあと、病院近くのフラワーショップに来ていた。今までがんばってくれていた分、私からお母さんにお花のプレゼントをしようと思ったのだ。

店頭に並んでいる、色鮮やかな花から自然の生命を感じる。

「きれい」

うっとりした表情を浮かべてお花を見ていると、やわらかな風が吹いた。その風に吹かれて、花の香りが私の鼻腔をついた。

「いらっしゃいませ」

私が店内に入ると、若い女性の声が聞こえた。

黒い髪の毛を一つに結んでおり、少しつり上がった茶色瞳。白い長袖のTシャツの上から、黒いエプロンを着ていた。
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