タイムリープ
「仕方がないです。この仕事も、大学を卒業するまでと決めていたので」

「そっか………」

若い男性は、苦笑いを浮かべた。

「じゃあ私、もう行きますね」

そう言って私は、再び歩き始めた。

「千春ちゃん、もう少し待ってください」

若い男性は、店の名前で私を呼んだ。

「そんな人、もういないよ」

私は立ち止まって、そう言った。

千春という名で、仕事をしていた思い出がよみがえる。

「え!」

後ろから、若い男性の驚きの声が聞こえた。

「ごめんね。もう私、千春じゃないんだ。だから、その名前は呼ばないで」

私は、きっぱりと拒絶した。

数分前まで千春というキャラを演じていたが、今は梢として生きていける。なんだかもうひとりの自分が、この世界から死んだような感覚に一瞬なった。
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