タイムリープ
「千春ちゃん、だいじょうぶ？」

6時になると斎藤さんが、心配そうな表情で私のいる個室に入ってきた。

「まぁ、なんとか」

私は、乾いた声で答えた。

このやり取りも、はっきりと覚えている。

「よかったぁ、千春ちゃんの笑顔が見れて」

斎藤さんは、安心したようにほっとため息を吐いた。それと同時に私は、彼の左腕に視線を移した。

「はっ！」

彼の左腕を見た瞬間、私の目がかっと見開いた。

優太のLINEの文章に書かれていた通り、三センチくらいの切り傷が彼の左腕にあった。

「どうしたの？」

斎藤さんは、驚いた私の顔を見て首をかしげた。

「ううん、なんでもないよ。それより、斎藤さんは、好きな人がいるの？」

私は、むっと顔を近づけて彼に訊いた。その瞬間、彼の顔が急激に赤くなった。

「えっ！」

斎藤さんは目を丸くし、視線をあちこちに泳がしている。

「私、斎藤さんのことが好きなんです。本当はお客さんに恋愛感情を抱くのはダメなんですけど、斎藤さん、優しいから」

私は瞳を潤わせながら、自分でも思えないぐらいの嘘をついた。そしてテーブルの上に置いてあったピンク色のスマートフォンを手に取り、私はカメラモードにした。
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