私の彼
♠︎光源氏な彼
貴方は私に自由をくれました。

だけど同時に貴方の籠の鳥になりました。



電車に乗って、どこでもいいから貴方の側から逃げたかった。

私がいなくなれば貴方の鶴の一声で、
全国中の舎弟が死に物狂いで探す。
本当に、死ぬことになるから。

高校の古典の授業で、源氏物語・紫の上の話を習った。
光源氏が、幼い紫の上を育てながら、自分好みの女性に作り上げて、妙齢になった紫の上を妻にする話。

ロリコンとか、そこまで愛されるのも羨ましいとか意見はまちまち。
所詮、紫式部の妄想の世界の産物だから読む人によって感じ方が違って当たり前。

だけど私は実生活がそうだから、
他人事に思えない。

私の産みの母は、いわゆるクズで、
ギャンブルで負けては、私に手をあげる。
ろくに学校も行かせてくれなかった。

いつも、押入れの中で静かに今日は負けませんようにと願っていた。

父はいない。存在すら知らない。
母1人、子1人。

そんな毎日に1人加わった。
母の恋人だ。

押入れから出るなと言われ、
機嫌が悪ければ、2人とも手をあげる。

何度も舌を噛んで死のうと思った。
けれど死ねなかった。

それから数ヶ月後、突然怖そうな黒ずくめ人と派手なシャツを来た人達が来た。

母とその恋人は、私を押入れから引っ張り出し、臓器を売るでも、風呂屋に沈めるでもなんでもしていいんでと私を差し出した。

1人の綺麗な顔した男の人が尋ねた。
『お前、この格好はどうした?』

母が、躾けしてたんだと誤魔化した。
けれどそんな苦しい言い訳は通用しない。

『一緒に俺のところにくるか?』
と聞かれ、はいと返事した。

それから覚えていない。
気がついたら知らない屋敷にいて、さっきの男の人がいた。

それからは、彼らとの生活が始まった。

今までが嘘のように、温かいご飯とふかふかのお布団、お菓子もアニメも何でも与えてくれた。そして何より、何かにつけてパニックになる私にいつも笑顔で大丈夫だ、俺がいると抱きしめてくれる彼の存在が嬉しかった。

『お前は何も気にしなくていい。
俺の側で、いてくれればそれでいい』


私は、中学生になった頃からか、
彼の束縛が始まった。

今思えば、出会った時からあったはずなのだけど、私の脳は完全彼に侵食されてて気づけなかっただけだと思う。

自惚れではなく、母親に似ているせいか年齢の割に大人びた顔つきで、中学に入ってからは、よく声をかけられるようになった。

私の頭には、彼しかいないから全く眼中になかったから、
おかしいと気付き始めた時はもう時すでに遅しだった。

私の首に腕を巻きつけるようにもたれかかって来た先輩は、次の日から見なくなった。

そんなことがくれ返しあったので、周りからは男女問わず離れて行った。

私は彼にやめてくれるように頼んだ。

『なぁ?何が不満なんだ?
お前に絡んでくる奴は全部排除する。
本当は、学校にも行かせたくねぇのに
外の世界なんて汚ねぇもんお前は見なくていいんだ。』

結局受け入れてくれず、友達が1人もいないまま中学を卒業した。

一苦労の末、高校に入学するのも
何も変わらなかった。

別にもういいやと諦め半分、自由になりたい半分で頭の中がグチャグチャだった。

そんな時、1人のクラスメートが国語の授業中言っていたことが胸に刺ささった。

自由になれたかもしれないのにそれを手放したのは、紫の上でしょ?

私は、あの頃の弱い子供じゃない。
ちゃんと1人で、歩いていける。
逃げ出すなら今だ!そう思い、何とか逃げ出した。

彼のことは、好きだと思う。
だけどそれが愛なのか何なのかはわからない。
日に日に自由がなくなっていくことは耐えられなかった。

海の見える街までやって来た。
これからどこに行こうかどうやって働こうか考えながら、街を彷徨った。

後ろについてくる車にも気づかずに。

すいませんと声をかけられたのが記憶の最後。
目が覚めたら、屋敷にいた。
あぁ、捕まったなと頭はすごく冷静だった。すると、ジャラという音と窮屈な腕と脚に気がついたら。

鎖を外そうともがくけれど外れない。

『外れねぇよ。
お前、俺からよく逃げれると思ったな?
どこに逃げても、絶対探し出す。
もう、遊びはおしまいだ
高校も退学届出しておいた
婚姻届も今出してきた
明日、皆にお前が名実ともに俺の嫁になったって披露する。いいな』

これで私の自由は完全になくなった。

それからは毎日彼のそばでお人形の日々が始まった。


紫の上は、幸せだったんだろうか?
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