クールな部長とときめき社内恋愛
藤麻さんの付箋いたずらは面白くてちょっと馬鹿っぽくて、元気が出た。

これも慰めるためにやってくれたのかな。
剥がした付箋を小物ケースに入れて眺めているとどこか温かい気持ちになって、他の付箋を見るのが楽しみになった。


翌日の朝、いつも通り起きて支度を進めていたとき、リビングの棚に置いてある鏡の横に『化粧しなくてもかわいいよ』などという付箋が貼ってあるのを見たわたしは、照れと動揺で硬直してしまった。

彼がわたしの部屋に泊まったときに、ノーメイクの顔を見られている。
藤麻さんったら、こういうことを書いて恥ずかしくないの!?
本人がいないのにたった一言のメモで朝から彼に振り回されたと思いながら、会社へ向かうことになった。

昨日のキスのことだって、まだ考えてしまうのに。
きっと会社で顔を合わせても藤麻さんはいつも通りだろうから、わたしも普通にしていようとは思うけど、変に構えてしまって緊張する。

とにかく、冷静に。仕事のときは余計なことを考えず、しっかり集中すれば大丈夫。
そう言い聞かせながらオフィスへ向かうと、デスクの間を移動している藤麻さんと目が合った。

反射的に固まっていると、彼がすたすたとこちらにやってきて、フロアの通路へ押し戻される。そしてわたしの手を引き、そばにある壁の窪みに隠れるように体を寄せた。

「昨日はあの後、ひとりで泣いたりしなかった?」

流れるような一連の動きに見惚れていたわたしは我に返り、「な、泣いていません」と答える。

わたしのことを気にかけてくれているんだと感じて、心に温かなものが広がっていった。
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