クールな部長とときめき社内恋愛
「車に乗せてもらうので、ちゃんと挨拶しただけです!」

からかわれるのが嫌で言い返したわたしを、藤麻さんは「ふーん?」と面白がるような横目で見て、車を発進させた。
いつもと変わらない彼のおかげで、先ほどよりも緊張はやわらぐ。

「デートらしいことがしたいなって思ってるんだけど、行きたい場所とかある? とくにないなら、俺が決めちゃうよ」

ハンドルを回したあと、藤麻さんがちらっとこちらを見て尋ねてきた。
デートって言われるたびに照れてしまうけど、藤麻さんにとって深い意味はないだろうから、わたしは平静を装う。

「えーっと、藤麻さんにお任せします」

「じゃあ、見たい映画あるから付き合って」

わたしは小さくうなずいた。
頬を緩めている藤麻さんの横顔に、なんだかくすぐったい気持ちでいっぱいになった。

車は二十分ほど走って、飲食店や映画館のある商業施設に着いた。地下駐車場に車を停めて降りると、ふたりで並んで映画館のある二階フロアへ向かう。

藤麻さんはなんの映画が見たいのかな?
チケット売り場の近くまで来て、上映スケジュールを見つめながらぼうっと考えていると、大学生くらいの男女の集団とぶつかりそうになった。

すると、藤麻さんが横からギュッとわたしの肩を抱き寄せる。
ぶつかりそうだったから助けてくれたんだろうけど、その行動にドキドキしてしまった。

「俺、あれが見たいんだけどいい? 時間もちょうどいいし」

「は、はい、大丈夫です」

肩に腕を回したまま、今話題になっている冒険映画を指さした彼はわたしの返事を聞くと離れて、チケットを買いにいってくれた。
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