昼下がりの情事(よしなしごと)
志郎には前妻との間に、子どもが二人いた。
子どもたちが生まれたちょうどその頃、開業した設計事務所は軌道に乗るかどうかの正念場だった。
だから、どんな小さなものであっても、依頼された仕事は限界まで引き受けた。
そのため、寝る間を惜しんで仕事に没頭することになり、事務所に泊まり込んで家にはほとんど帰らない日々が続いた。
志郎は、家族のために、家族が安心して暮らせるために、と思ってただひたすら邁進した。
ところが、年子の子どもたちをたった一人で育てていた妻の心は、とっくに離れていた。
子どもを連れて実家に帰った妻は、弁護士を立てて離婚を迫ってきた。
数ヶ月後、離婚が成立し、志郎は妻と子どもたちを失った。
子どもたちはまだ幼稚園に入る前だった。