昼下がりの情事(よしなしごと)
「……突然、前の女房の義母から、連絡があってね」
志郎はとつとつと、話し始めた。
「下の息子が……あ、幼稚園の年長さんなんだけど……『誕生日プレゼントはいらないから、おとうさんに会ってみたい』って言い出して聞かないから、一度会ってくれって言われて」
魚住は相槌を打つことなく、ただ彼の話を聞く。
「僕の方はもう再婚してるから、女房は遠慮してたみたいで。でも、やむにやまれず義母が電話してきたようで」
志郎はコーヒーのストローをくるん、と回す。
溶けかけた氷がころん、と回る。
「……一度だけ、っていうことだったけど、別れ際、息子が『パパ、次はいつ会えるの?』って訊くから、つい次の約束をしちゃってね」
困りながらも、うれしさが滲み出ていた。
「女房からは、一番手のかかるときになんにもしなかったくせに、って言われるんだけど」
志郎は肩を竦めた。
「上の娘はもう小学生だから、最初は全然しゃべってくれなくて、最近やっと『パパ』って呼んでくれるようになったんだ」
晴れ晴れしい表情になる。
そして、意を決したように告げた。
「泊りがけのゴルフって美咲には言ってたけど、本当は、息子たちとキャンプへ行ってバーベキューとかしてたんだよ」
でも、すぐに目を伏せて。
「こんなふうにどこかへ行こうって誘って、ついてきてくれるのは、中学に入る頃くらいまでかな、って思って。手遅れにならないうちに父親らしいことをしておきたいな、って思って……」