昼下がりの情事(よしなしごと)
「……お待たせして申し訳ありません」
和哉は美咲の夫に、三〇度の角度で頭を下げた。
あとでガッツリやるつもりなので、今は軽くジャブ程度に抑える。
だれに習ったわけでもないが、美咲と出逢った小学生のときにはもう「美しい礼」は確立されていた。
営業のだれかがしくじって、相手が鬱陶しい輩のとき、和哉はこの「礼」をするために駆り出された。
相手が年配であればあるほど、この「礼」の威力は凄まじかった。
得意先の会長や社長にしようものなら、
「ぜひ娘か孫の婿に…… ‼︎」と懇願される。
……おい、わかってるか、美咲!
おまえを離婚させてまで自分の嫁にしたいと思ってるおれは、そういう男なんだぞ‼︎