遠い昔からの物語

◇第二話◇


今まで……と云ってもまだ二度しか会っていないが、わたしは軍服姿の間宮中尉しか見たことがなかった。

見合いの日も、結納の日も、真っ白な海軍の軍服を着て、軍帽を身につけていた。

だから、部屋の中にいる着流し姿の中尉が、首をこちらへ向けたとき、一瞬誰だかわからなくて、反射的に後ずさりしてしまった。

仲居が笑いながら促したので、うちは部屋の中へ入った。

部屋には既に御膳が置かれていた。

窓の外を見ると、もう宵が迫っていた。

うちは間宮中尉の対面の座蒲団に腰を下ろした。

あとから入ってきた仲居が茶の用意を始めたので、

「うちがやりますけぇ」

と云って引き取った。

気兼(きが)ねなことですのう。じゃあ、邪魔者は()ぬるけぇ、ゆっくらしてつかぁさいよう」

仲居は「どっこらしょ」と腰を上げて、部屋を出て行った。


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*きがねな ー 申し訳ない・遠慮する
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