遠い昔からの物語

そもそも、本を読むようになったのは、ぽっかり空いた時間に、他にすることが見当たらなかったからである。

東京でいた頃は、昼となく夜となく空襲警報が鳴り響くと、すぐさま防空頭巾をかぶって家の裏に掘った防空壕へ飛び込む日々を送っていた。

でも、この地では、空襲警報はおろか警戒警報すらまれにしか発令されない。

この町に、天高く飛ぶB29の機列が来ないわけではない。

だけど、いつもそれらはこの地をすーっと通り過ぎて行き、海軍の軍港がある隣町へ大量の爆弾を落として去って行く。

だから、この町の人たちは暢気である。

国民学校の男の子たちなんて、ふざけて機列に向かって手を振っているくらいだ。

もちろん、そのあと大人たちからこっぴどく叱られ、ゲンコツをもらっているけれど。

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