遠い昔からの物語
学校を卒業しても結婚せずに家でいる娘は、隣組を通じて軍関係の事務の仕事や軍需工場などへ徴用されるが、ありがたいことに疎開者にはお呼びが掛からない。
と云っても、こちらへ移って間がないため近所には知っている者もいない。
伯母を手伝って家のことをやるにも、女二人なら昼前にはたいていのことが済んだから、夕飯の支度をするまでの昼下がりは、隣組ごとに割り当てられた、戦地へ送る慰問袋などを縫うくらいしかなにもすることがなかった。
昼間唯一の話し相手である伯母は、大日本婦人会の役を引き受けていたので、町内の防空演習などに関する寄り合いで留守がちだった。
そこで、伯父の本棚から本を抜き出して読むようになったのだ。