遠い昔からの物語

下の従姉(いとこ)である廣子は、女学校を卒業してすぐに、見合いした海軍大尉と結婚した。今のわたしと同じ歳のときのことである。

まもなく日米開戦となり、辣腕の海軍パイロットだった大尉は、ある海戦で名誉の戦死を遂げた。詳細は軍事機密に触れるので定かではないが、出撃した軍艦が沈没したという話だ。

そして、一階級特進して少佐となり、靖国神社に祀られ「軍神」となった。

だが、海の上で死んだ者には遺骨はない。

母艦の方の私室に遺されていた、軍人の心構えとして用意していた遺書と万年筆などの身の回り品、そして廣子の写真だけが還ってきたそうだ。

まだ二十歳に満たない若さで夫を喪ったにもかかわらず、廣子はお葬式で涙一つこぼさなかったらしい。

その毅然とした態度に、

「廣子は覚悟しとったんだろう。でなければ、あんな振る舞いはとてもできん。あれこそ、軍人の妻だと思ったよ」

参列したうちの父も感心しきっていた。

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