遠い昔からの物語
翌朝、うちに戻ったら、そこは一面の焼け野原だった。
家はすっかり焼けてしまっていた。地面はまだ熱く、処々火が燻り、煙が立っていた。とうに履き潰されているズック靴の足の裏がじんじんと痛い。
わたしたちが入っていた防空壕の辺りに、ものすごく大きな穴が開いていた。
もしかしたら、着弾したのかもしれない。
「……おまえたちは、兄貴のところへ疎開しろ。またこんなのが来たら、今度はもう助からん」
一晩中、煙に燻されたせいで喉がヒリヒリするのだろう。父はしゃがれた声で呻くように云った。
「おとうさんは、どうなさるの」
わたしは、真っ黒で煤だらけの顔を上げて父に訊ねた。いつの間にか、眉毛も睫毛も焦げてなくなっていた。
「おれは、仕事があるからな。ここに残る」
父は国によって統合された電力会社で技師をしていた。
すると、間髪入れずに母が、
「わたしも、おとうさんと一緒に残りますよ。一人きりで残って、身の回りのことはどうなさるんです」
と云った。
東京生まれの母は、父の説得にも決して耳を傾けず、郊外にある父の同僚の家の離れへ、夫婦して身を寄せるとこととなった。
だから、わたし一人がこの地に疎開することになったのだ。