遠い昔からの物語

「……あのう……東京は……空襲は……大丈夫ですかしら。父と母が、まだ残っておりますので」

わたしは思い切って、気になっていたことを尋ねた。内地であっても軍事郵便が優先のため、父母からの葉書はなかなか届かなかった。

「僕は先週帰省したから、今週のことはわからないが……相変わらず空襲警報が鳴らない日はないけど、三月や五月のような、ものすごいのはありませんよ」

彼は少し表情を緩めて答えた。

彼もあの、三月と五月を体験しているのだ。

なぜだか、急に、懐かしい人にあったような、妙な感慨を覚えた。

「だけど、こっちの人があんまりのんびりしているんで驚いた。東京では毎日、命がけで逃げ回ってるっていうのにね」

彼は呆れたように苦笑した。

わたしは大きく肯いた。
わたしも同じことを思っていたからだ。

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